ある一人の男の物語。

高3の夏、そろそろ真剣に進路を決めないといけない時期になった

 

でもやりたいこともないし、
進学か就職、どっちがいいのかなんて俺にはわかんない。

今までは周りや親に流されてきただけだから、
この18年間自分の将来についてなんて
1回も真面目に考えたことなんてなかったなあ。

 

とりあえず母さんに相談しよ。

 

「ねえ母さん、進路どうすればいいと思う?

俺別に夢とかないし、
やりたいこともないからそれならとりあえず大学行って
なんかやりたいこと見つかったらいいなーとは思ってんだけど・・・」

 

母さん:

「何言ってんの、うちはお金がないから
大学通えるお金は払えないよ。

進学するなら自分でバイトして通いなさいよ。

それが嫌なら高卒で安定した大企業に就職しなさい。

母さんもそれが1番安心だわ。」

 

確かに母さんの言う通りだった。
うちは俺がまだ幼い頃からずっと母子家庭でお金もそんなにあるわけじゃない。

それに、あんまり親にも迷惑かけなくないしなあ。

それなら母さんの言った通り、
就職してお金貯めた方がいいや。

 

結局俺は就職を選んだ。

 

そしてそのまま就職試験を受けて、
何とか大手の企業から内定をもらうことができた。

 

 

==社会人になった俺==

 

高校を卒業して仕事をする毎日になった。

仕事内容は基本的に工場のライン。

 

毎日毎日同じ流れ作業をするだけ。
1日最低でも8時間、多い時は残業で12時間以上労働することもある。

 

正直、給料がたった15万なんて思ってなかった。
もっともらえるかと思ってた。

 

けどまあ、こんな俺を雇ってくれた会社には感謝してはいるけど・・・

 

ああ、それにしても毎日これと言った楽しいこともないし
なんか仕事してるけどつまんないな。

俺はこのまま上司と同じように生きて死んでいくんだろうか。

 

周りの流れ、会社のレールに乗って
このままずっと変わらない日々を過ごしていくんだろうか。

 

給料だってもう5年も勤務してるのに、
1年目からたった1万しか増えてない。

 

本当はもっとこう、
刺激のある心から楽しいと思える仕事がしたいし、
これは夢物語かもしれないけど、

社長とかになってみたいなーとも思ってる。

 

まあでも俺には才能も知識もないし、無理かな・・・

きっと何か新しいことしたってうまくいかないんだろうな。

 

そうだ。またあの時みたいに母さんに相談してみよ。

「ねえ母さん、就職してもう5年経ったけど、
やっててあんま楽しくないし、
俺転職して後々は起業とか考えてるんだけどどうかな?」

 

母さん:

「あんた何言ってんの!

5年も大企業で就職してこれたのに、
今更転職、ましてや将来起業だなんて無謀すぎるでしょ。

それに、転職したってまた同じように悩むだけよ。

 

そんなこと言ってないで、真面目に今のまま働いて貯金しておきなさい。

うちはお金で苦労したんだから。

あんたまで母さんと同じ苦労はさせたくないのよ。」

 

・・・そうだよな。

 

今更転職だなんて無理が過ぎるか笑

ましてや起業なんて難しそうだし、
俺がやったってどうせまたすぐ飽きるんだろうし。

 

うん、わかった。

やっぱ辞めずにこのままの状態でいるね。

 

 

==さらに5年後==

 

気づいたらもう今の会社に就職して丸10年か。

早いな。

 

今は2年前に結婚した奥さんと、
ついこないだ子供が生まれたばかりで
いよいよこれからが本格的な働き時だなー。

俺ももっと頑張って家族のために貯金しないとな。

 

でも、毎月もらえる給料は全然変わっていなかった。

自分だけの給料じゃ養育費や家賃に払うお金が足りなかったから、
奥さんにもパートで協力してもらって今は何とかやりくりしている

 

残業も不景気のせいか、ほぼ毎日続いている・・・

正直精神的にキツイ。

 

家に帰っても飯食って寝るだけだし、
妻にもパートで働いてもらってるのに
家事や育児をあいつ1人に任せっきりだ。


さすがに何とか時間作って俺も手伝ってあげないと、

あいつにももっと負担をかけちゃうことになる。

 

俺も毎日の残業とか上司からの説教とかでストレス溜まってるけど
妻にも相当なストレスが溜まってるんだろうな・・・


ごねんな、こんな俺で。

 

 

==さらに20年後==

 

気づけばもう就職して30年が経とうとしていた。

そろそろ退職後のことも考えないといけないな。

 

今はもうほとんど会社の人間は後輩ばかりで、
俺ももう社員たちに仕事を教える立場の課長にまでなっていた。

 

もう転職とか起業という物自体、
考える余裕すらもなかった。

 

正直今はもうそれどころではない。


大事な家族が俺にはいるんだ。


今更またさらに迷惑をかけてどうする。

 

子供だってもう大人になったし、
そろそろ結婚の相談をしてくる頃だろうか?



そんなある日の朝のことだった。

 

人事部の部長から呼ばれたので話を聞いていると、
衝撃的な言い渡しをされてしまったのだ。

 

部長:

「ここまで30年間、よく働いてくれたね。

君ももう気づいてはいると思うけど、
だいぶ機械化も進んできたし、
君にはそろそろ依願退職を考えてもらいたんだよ。

これから新人も増員させたいし、
タイミング的には今が1番だと思ってね。」

 

そう、部長から遠回しで「リストラ」を言い渡されてしまった。

 

社会人になって30年間で、
最もキツイ仕打ちだったかもしれない。


まだ家のローンだってある。

まだまだ家族を大黒柱として支えていかなきゃいけないのに。
30年だぞ?

それだけ会社に貢献してきたはずなのに、
この大事な時期にいきなりリストラなんて・・・

 

俺の人生はどうなってしまうんだ。
そもそもどこで間違ったんだろうか。

あの時、結婚する前に転職、
もしくは副業から自分でビジネスでもやっていれば
少しはもっと余裕のある人生になっていたんだろうか・・・。

 

気付いたら、
高3の進路を決める時期のことを思い出していた。

 

あの時、素直に自分の思いに従って行動していればよかったのかな


でももう今更遅い。

俺はずっと周りや親の言いなりに過ぎなかった。


すぐに人の意見に流されるだけで、

自分の本当の気持ちに素直になったことなんて1度もなかった。

 


どうして今になって気付くんだ・・・

もっと早くから気付いていればこんなことにはならなかったはずなのに。


でも、

考えたところでもう過ぎた時間を今更取り戻すことなんてできやしない。

 

今思えば、タイミングやきっかけなんていくらでも作れた。

なのに俺は何も行動しようとしなかった。


ただ「そのうち何とかなるだろう」

として考えてなくて、結局そのまま人生が流れた。


別に大富豪になりたいわけじゃなかった。


ただ家族と幸せに過ごして

ちょっとだけ裕福のある自由な暮らしができればそれでいいと思ってた。

あと、母さんにももっと親孝行してあげたかった。


ただそれだけのことなのに・・・


一体何をやっていたんだ俺は。

 

もしかしたら、ただ幸せになるための
「優先順位」というのを間違えていただけだったのかもしれない。

 


俺は今更もう遅いけど、

自慢の息子だけはちゃんと後悔しない生き方をしてほしい。

 

俺みたいな勿体無い人生を歩んでほしくないから。

 

終わり。

 

 

追伸

ちょっと小説風に書いてみました。

感想あればぜひコメント欄か、メルマガに気軽に送ってください。

2 件のコメント

  • すごく分かりやすく、心に響く物語でした。
    僕が学生の頃に漠然と感じてた「未来の日本」を体験したような感覚です。
    今の常識に流されて思考を止めてしまうと、おそらくこうなるでしょうね。

    今の日本の経済成長はほぼ停滞してるので、
    普通にやるだけじゃ普通に生きていけないんですよね、残念ですけど。

    余談ですが、物語にでてくる母親が僕の母親にそっくりでした笑
    善意にあふれるドリームキラーなあたりがそのまんまです。
    僕は運良く?跳ねっ返りな性格だったので今は起業してやっていますが、
    そのままいう事聞いてたらこの記事のとおりになったのかなーと。

  • それは何よりです。
    こんなドリームキラー多いだろうなーと思いながら書きました。

    しゅんえい

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